大判例

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名古屋地方裁判所 昭和45年(モ甲)575号 判決 1973年3月30日

申請人

立松清隆

右訴訟代理人

石川智太郎

外一名

被申請人

名古屋放送株式会社

右代表者

神谷正太郎

右訴訟代理人

本山亨

外四名

主文

一、申請人、被申請人間の名古屋地方裁判所昭和四五年(ヨ)第一、〇八〇号仮払い仮処分申請事件につき、当裁判所が昭和四五年九月一九日なした仮処分決定を認可する。

二、訴訟費用は被申請人の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立<略>

第二、申請人の主張

一、被申請人会社(以下「会社」という。)はテレビ放送等を目的とする株式会社であり、申請人は昭和三七年三月二日会社に入社したが会社は昭和四一年二月二八日申請人に対し解雇の意思表示(以下「本件解雇」という。)をした。そこで申請人は会社に対し、本件解雇の無効を主張して名古屋地方裁判所に従業員としての地位保全と賃金の仮払を求める仮処分申請(同裁判所昭和四一年(ヨ)第六三二号)をなしたところ同裁判所は同年七月二〇日申請人の主張を認めて従業員の地位保全と昭和四一年三月一日以降一ケ月二六、一五〇円を毎月二五日限り申請人に支払えとの仮処分決定(以下「第一次仮処分」という。)をした。右仮処分の本案訴訟は同裁判所昭和四一年(ワ)第二、一九二号事件として現に係属中である。

二、申請人は右仮処分により雇用契約上の権利を仮に有する地位にあるから、賃金その他の労働条件について他の従業員と同等の待遇を受ける権利を有する。従つて申請人は会社の従業員が支払を受ける基本給のベースアップや定期昇給および諸手当増額等の支払を求める権利があることになる。

三、そこで申請人は会社に対して昭和四一年度ないし昭和四四年度の各昇給による基本給の増額分・諸手当の未払分、昭和四一年夏から昭和四四年夏までの各一時金の仮払を求めて前同裁判所に仮処分申請(同裁判所昭和四四年(ヨ)第五八三号)をなしたところ、同裁判所は昭和四四年一一月一七日に五六〇、二六四円および昭和四四年一一月一日以降毎月二五日限り一ケ月三四、九〇〇円を申請人に支払えとの仮処分判決(以下「第二次仮処分」という。)をした。

四、次いで申請人は、昭和四五年度の基本給の昇給分・諸手当の増額分の仮払を求めて前同裁判所に仮処分申請(前同裁判所昭和四五年(ヨ)第六一九号)をなしたところ、同裁判所は昭和四五年六月一日に同年四月一日以降毎月二五日限り一ケ月一一、八五〇円を申請人に支払えとの仮処分決定(以下「第三次仮処分」という。)をした。

五、ところで、申請人は会社の従業員で組織されている名古屋放送労働組合(以下「組合」という。)の組合員であるところ、右組合と会社との間に昭和四五年度夏季一時金(第一八期賞与)(以下「本件賞与」ともいう。)に関し、労働協約が締結されたが、その内容は「基本給×4.3+1律28,000円」の算式により計算して得た額を昭和四五年八月一五日に支給する、というものであつた。

もつとも、会社は産前産後の特別有給休暇について一日につき一三四分の一を勤怠控除の対象に入れることを提示し、組合は、これを拒否したため労働協約書は作成されていないけれども、これを除いた夏季一時金の支給基準については完全に労使が合意し、組合からの要求書、これに対する会社の回答書という形で合意を証する書面が労使の間に取り交わされているのである。

このような場合、右合意部分は労働組合法第一四条の要式性をみたしているから、労働協約として有効に成立していると解すべきである。

仮に右労働協約が有効に成立していないとしても、会社は本件賞与について昭和四五年八月一五日、会社就業規則五〇条、給与規則二九条「賞与の支給額、配分、支給期日、その他の取り扱いについてはその都度決定する。」に基づき前項記載と全く同一の賞与に関する支給基準を決定した。

右決定は就業規則の一部をなすものであり、同日、組合執行委員長宛の文書により組合に通知された。

このように会社が就業規則により賞与の支給基準を決定しその旨組合に表示した以上、個々の組合員は右基準に基づく一時金の支払請求権を当然に取得する。

もともと労働契約は継続的な契約関係であるから、基本にある個別的労働契約が結ばれた以降は、労働とそい対価の支払が継続的になされてゆくことになるが、その際、就業規則によつて賃金が定められているときは、一定の労務の提供があれば使用者に右就業規則による賃金の支払義務が当然に発生するのであり、この理は一時金についても全く同様である。

しかして前記第一次ないし第三次仮処分によつて認められた申請人の昭和四五年四月以降の基本給は五六、四〇〇円であるからこれを前記算式により計算すると申請人の本件賞与は二七〇、五二〇円となる。<後略>

理由

一申請人の主張一項、三項、四項の事実および会社が本件賞与に関して勤怠控除の対象につき組合に対し申請人主張のとおりの提示をなし組合がこれを拒否したため労働協約書は作成されるに至らなかつたこと、昭和四五年八月一五日会社は就業規則五〇条・給与規則二九条に基づき申請人主張のとおりの支給基準を決定しこれを組合に通知したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

二会社は、申請人は本件解雇により会社の従業員としての地位を失つており、第一次仮処分により保全された権利を本件仮処分の被保全権利として主張しうべきものではない旨主張する。しかし前記のとおり、申請人は第一次仮処分により会社の従業員である地位が形成されているのであるから右仮処分が取消されない以上、本件においても申請人は会社の従業員としての地位を保有しているものと認めるのが相当である。

従つて申請人は、組合員として組合と会社との間に一時金等につき協定が締結された場合は右協定の効力を受け一時金支払請求権を取得したものというべきである(労使間に一時金についての協約が結ばれたとき各組合員の具体的個別的配分額は査定部分を除いて自動的に算定できる範囲において右協約の効力として当然に確定し、払支請求権もその時点で発生すると解するのが相当である。)。

三しかしながら前記事実によれば、本件賞与に関しては勤怠控除の対象をめぐつて労使双方の意見が対立し、協約書が作成されなかつたのであるから、労働協約が成立していないことは明白である。

従つて、労働協約の成立したことを前提とする申請人の主張は採用できない。

四次に<証拠>によれば、会社就業規則には五〇条「従業員の給与については別に定める給与規則による。」旨の規定、これに基づき制定された給与規則には二九条「会社の業績に応じて賞与を支給することがある。賞与の支給額、配分、支給期日その他の取り扱いについてはその都度決定する。」旨の規定があることが認められ右認定に反する疎明はない。そして、昭和四五年八月一五日の会社の決定は、右規定に基づくものであることは前記のとおりである。

右給与規則二九条のように具体的支給基準その他が年度毎又は半期毎の使用者の都合による決定に委ねられている条項(いわゆる白地部分を含む条項)も就業規則の受任規定である以上法律上は就業規則の性質を有するものであるから、同条に基づきなされた会社の右決定は同条の白地部分を本件賞与の支給に関する具体的基準につきこれを補充したものであり、その意味において同条と一体不可分な関係に立つものであることは明白である。

ところで、多数の労働者を使用する我が国の近代企業においては労働者を雇傭するに際し、特別事情なきかぎり賃金その他の労働条件は就業規則の定めるところによる旨の労働契約を労働者と結ぶという労働慣行が古くから存する。

従つて特別事情の存したことについては何らの資料の存しない本件においては、右慣行に照らし申請人は会社に雇傭された当初において会社との間に賃金その他の労働条件は就業規則の定めるところによる旨の労働契約を結んだものと認めるのが相当である。

してみると、毎期の賞与に関する前記給与規則二九条ないしこれと一体をなす本件賞与支給基準を定めた会社の前記決定も当然に申請人と会社との間の労働契約の内容となることは明らかである。

そして前記のとおり申請人は現に第一次仮処分により会社の従業員の地位を保有しているのであるから右労働契約は現在でも有効に存続しているものというべく、会社は申請人が被解雇者であることを理由として右労働契約に基づく義務の履行を拒むことはできない道理である。

従つて申請人は、会社に対し本件賞与につき前記決定に基づき算出された金員の支払請求権(但し査定部分は原則として会社の個別的査定の意思表示が必要であるが、本件では申請人は査定部分は請求していない。)を有するわけである。

五また会社は本件賞与の支給対象者は、所定期間内に現に勤務し在籍する者であることを要する旨主張する。しかし前記のとおり申請人は一次仮処分により従業員の地位を仮に保有しているのであり、かつ会社の責に帰すべき事由により就労を拒否された結果稼働できないのであるから、申請人は会社のいう現に勤務し在籍する者に該当すると認むべきである。

さらに会社は、前記の会社決定の内容が給与規則二九条二項の一般的基準となるにしても、申請人はその支給の対象者から除かれている旨主張する。しかし前記のとおり右決定は申請人と会社との間の労働契約の内容となるのであるから、特段の事由なき限り会社はその履行を拒み得ないのであり、申請人を支給対象者から除外する旨の会社の決定は右労働契約に違反し、何らその効力を生じないものと解すべきである。

六<証拠>によれば、昭和四五年四月以降の申請人の基本給は五六、四〇〇円であることが認められ右認定に反する疎明はないからこれを前記会社決定の算式にあてはめると申請人の本件賞与は二七〇、五二〇円となることは計算上明らかである。

七次に必要性につき検討するに申請人が本件仮処分申請当時前記第一次ないし第三次仮処分に基づき会社から毎月七二、九〇〇円(税引き手取額五八、六四八円)の支払を受けていたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば税等を控除した手取額は六五、四三五円であることが認められ右認定を左右する疎明はない。

<証拠>によれば、申請人は会社から受ける賃金を唯一の生活の資とする労働者であつて、当時病弱の妻と幼児一人をかかえ近時の物価高から前記手取額六五、四三五円をもつては一家三人の生計を維持するには充分ではなかつたことが認められ、右認定を左右するに足りる疎明はない。

ところで我が国の賃金生活者の現状では賃金の殆んどが生活費にあてられ、一時金も日常生活費の赤字補填の意味をもつていることが一般である。もつとも一時金の全部が赤字補填にあてられるとは云えないが本件の場合前記申請人の家族状況を考えると本件仮処分申請は一五〇、〇〇〇円の限度において仮払の必要性を認めるのが相当である。そして右必要性はその後の物価上昇に加えて子女の養育費の増大などを考えるとその他に右仮払の必要性を減少せしめるような特段の事情のない本件においてはなおその必要性があるものと認めるのが相当である。会社の全疎明によるも前記認定を左右するに足りない。

八右のとおりであるから、申請人の本件仮処分申請については一五〇、〇〇〇円の限度でその理由があるので、これを認容した前記主文第一項掲記の仮処分決定は相当であるからこれを認可し、異議申立後の訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。(松本武 淵上勤 植村立郎)

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